なぜなぜ分析の例題 セルフレジ
なぜなぜ分析例題の完成形

2021/01/09更新 なぜなぜ分析を学ぶとき、実際に分析を行う方が分かりやすいと思います。

そこで、ここではわたしが実際に体験したことを例題としてなぜなぜ分析を行う方法を紹介します。

例題では、『なぜなぜ分析とは何かを解説します』に沿って進めていきます。

体験した出来事

ある日わたしは本屋で数冊の本を手に取り、会計のためレジに向かいました。

いつもは店員のいるレジで会計を済ませますが、たまたま気になっていたセルフレジに向かいました。

セルフレジで本のバーコードをバーコードリーダーを使用して端末に読み取ろうとしましたが、まったく反応しませんでした。

店員も直ぐに呼べるところにはいなかったので、あきらめて店員のいるレジで会計を済ませました。

なお、セルフレジは設置から半年ほど経過していました。

なぜなぜ分析を行うことを決定する

異常の発生や流出に対して、必ずしもなぜなぜ分析を行う必要はありません。

なぜなぜ分析は問題解決のためのツールの1つであるため、必要に応じて分析を行えば良いです。

今回は「せっかくコストをかけて導入したセルフレジがたくさんの客に利用してもらえるようにするために、なぜなぜ分析を実施して客がセルフレジで会計を済ませることをあきらめた件について再発を防止したい」として進めていきます。

三現主義に基づく確認

三現主義に基づく確認を行います。

ここではセルフレジの「端末」「バーコードリーダー」と、本の「バーコード」を確認します。

確認の結果
・「端末」は、使用可能な状態だった。
・「バーコードリーダー」は、端末との接続に問題は無く、使用可能な状態だった。
・「バーコード」は、汚れやキズは無く、読み取り可能な状態だった。
次に、周囲の状況を確認するとともに配置図を作成します。
周囲の状況
・セルフレジは2か所ある。
・使用上の注意事項などの表示やマニュアルなどは無い。
・セルフレジの並びに店員のいる有人レジがある。
・セルフレジと店員の居るブースの間には壁があり、お互いに確認できない作りになっている。
・セルフレジから店員を呼ぶには、セルフレジを出て有人レジへ行くか、店員の居るブースへ行く必要がある。
セルフレジ周辺の配置図
セルフレジ周辺の配置図

例題では店員の配置や客の導線、機器の設置場所、注意喚起などの表示類などを確認しておくと良いです。

原理原則の確認

次は原理原則の確認です。

まずセルフレジの仕組みについて確認します。

インターネットで検索すると「スキャン型セルフレジ」であること、「レーザー式バーコードリーダー」であることが確認できました。

次にバーコードの読み取り時の注意点を確認します。
同様にインターネットで検索すると「照明光の角度を調整する」「バーコードとバーコードリーダーの距離を調整する」「バーコードが読み取れる状態かどうか」が注意点であることが分かりました。
他にも分からないことなどが出てくればその都度確認すれば良いです。

時系列表の作成とデータの確認

次に時系列表の作成とデータの確認ですが、例題では必要が無いため省略します。

参考までに時系列表の例を載せます。

なぜなぜ分析の時系列表(例)
なぜなぜ分析の時系列表(例)

既存のフォーマットがあればそれを使用して作成した方が良く、時間(タイミング)が分かるようになっていれば大丈夫です。

データ(実データ)の確認では、実際に記録されていた記録類から異常の兆候が無かったかどうかなどを確認します。

当事者への聞き取り内容の確認

次は当事者への聞き取り内容の確認です。

セルフレジには問題が無かったことを確認しているため、バーコードリーダーの操作をどのように行ったのかが重要になります。

当事者に聞くこと
・バーコードリーダーをどのように操作したのか。
・バーコードリーダーや端末、本のバーコードに何か問題があったのか。
他には気付きなどがあれば話してもらうことで良いと思います。

当事者への聞き取り

次は当事者への聞き取りです。

例題の当事者はわたしですが、通常は聞く人と聞かれる人は異なります。

当事者から聞き取った内容
・端末の画面には本のバーコードを読み取るよう表示されていた。
・バーコードリーダーを手に持ってレーザー(照明光)を出すボタンを押した。
・本のバーコードにレーザーをあてたが端末画面の変化は無かった。
・バーコードリーダーからレーザー(照明光)が出ていることを確認した。
・本のバーコードを確認したが汚れやキズは無かった。
・本のバーコードを読み取るときにバーコードリーダーが当たるくらい近づけた。
・本のバーコードとバーコードリーダーは1cmほどの間隔だった。
・マニュアルなどを探したが無かった。
・有人のレジに行き店員を呼ぶことも考えたが接客中だった。
・他の店でもセルフレジを見たことはあるが利用したことは無い。
聞き取りを予定していた内容以外については、当事者から自発的に話してもらうと良いです。

事象の設定

次は事象の設定です。

事象には再発を防ぎたい出来事を設定します。

例題の概要
・客がセルフレジへ行き、バーコードリーダーを操作した。
・客がバーコードリーダーで商品のバーコードを読み取れなかった。
・客は店員を呼ばなかった。
・客はセルフレジでの会計をあきらめて有人のレジへ行った。
ここで店として求めるところはどこかを考えます。
店としてはコストをかけてセルフレジを導入しているので、当然ながら客にセルフレジを利用してもらいたいはずです。
ところがせっかく客がセルフレジに行ってくれたのにうまく会計できなければ、セルフレジを利用してくれなくなってしまうかもしれません。
そこで例題の事象は「客がバーコードリーダーで商品のバーコードを読み取れなかった」とします。
事象設定の考え方
・「客がセルフレジへ行き、バーコードリーダーを操作した。」は、店としては望んでいることです。
・「客は店員を呼ばなかった。」「客はセルフレジでの会計をあきらめて有人のレジへ行った。」は、客の対応で店が決めることはできません。
・「客がバーコードリーダーで商品のバーコードを読み取れなかった。」は、読み取れれば次からも利用してくれる可能性があるのでこれを対象とします。
事象設定について
なぜなぜ分析の力量、仕事の知識や経験が同程度の異なる分析者が同じ事象を設定した場合は、再発防止策はほぼ同じになります。
つまり、事象の設定は重要なポイントになります。

なぜなぜ分析の実施

次はなぜなぜ分析の実施です。

事象からなぜ1へ

事象「(1)客がバーコードリーダーで商品のバーコードを読み取れなかった。」の要因(原因)が何であったのかを、事実に基づいて展開します。
※(1)~(13)は説明する上での便宜上の番号です。

なぜなぜ分析例題の完成形
なぜなぜ分析例題の完成形

 

事象となぜ1
事象からなぜ1へ

「原理原則の確認」で「読み取り時の注意点」及び「当事者への聞き取り」から「商品のバーコードとバーコードリーダーは1cmほどの間隔だった。」ことが分かっています。

例題でのバーコードとバーコードリーダーの適正な間隔は「10cm程度」であることから、「バーコードとバーコードリーダーとの間隔が10cm程度空いていなかった」としてなぜ1の(2)とします。

またこのときに補足として下に赤字で「バーコードとバーコードリーダーは正常に動作していた」と記載しました。

分かりやすくするため(理解を助けるため)で、必要に応じて絵や写真を載せても良いと思います。

要因の表現は分かりやすく
要因の表現は誰が見ても分かるようにします。
例題の場合「間隔が空いていなかった」でも分かるかもしれませんが、「10cm程度」と付け加えると誰でもイメージがしやすくなります。

(1)と(2)が双方向に、スムーズにつながることを確認します。

掘り下げの確認
「(1) 客がバーコードリーダーで商品のバーコードを読み取れなかった」のはなぜ?「(2)バーコードとバーコードリーダーとの間隔が10cm程度空いていなかった」から
逆に戻ることができるかの確認
「(2) バーコードとバーコードリーダーとの間隔が10cm程度空いていなかった」から(だから) 「(1) 客がバーコードリーダーで商品のバーコードを読み取れなかった」。
上手くつながらない場合は要因の表現を見直すか、要因の抜けによるものです。

なぜ1からなぜ2へ

次になぜ2への展開を行います。
なぜ1となぜ2
なぜ1からなぜ2へ

(3)は、事象からなぜ1への展開と同様に考えて「当事者への聞き取り」での「他の店でもセルフレジを見たことはあるが利用したことは無い。」から、客がバーコードリーダーの操作に不慣れであったことが分かります。

そこで(3)は「客がバーコードとバーコードリーダーの適正な間隔が分からなかった」とします。

(4)は、(3)の「客がバーコードとバーコードリーダーの適正な間隔が分からなかった」状況でも、「原理原則の確認」での「読み取り時の注意点」におけるバーコードとバーコードリーダーの間隔に関する注意事項を客が確認できるように工夫してあれば防げた可能性があります。

また「当事者への聞き取り」で「マニュアルなどを探したが無かった。」ことを確認しています。

そこで(4)は「バーコードとバーコードリーダーの間隔を10cm前後空ける注意事項の記載が無かった」とします。

(5)は、「当事者への聞き取り」で「有人のレジに行き店員を呼ぶことも考えたが接客中だった。」ことと、「店員を呼ぶために呼び鈴を探したが無かった。」ことを確認しています。

そこで(5)は「客が店員に操作方法を尋ねなかった」とします。

この様に展開で分岐が発生する場合があります。

分岐するかどうかは、1つ前の「なぜ」に対しての要因を考えたときに要因が1つだけなのか、複数の要因があるのかを考えます。

1つ前の(2)では「バーコードとバーコードリーダーとの間隔が10cm程度空いていなかった」としました。

これに対して要因である(3)(4)(5)を言い換えると

要因を言い換えると
・(3)客が操作方法の注意事項を知らなかった
・(4)客に操作方法の注意事項を知ってもらうための対応が無かった
・(5)客が操作を手助けする店員の介入を求めなかった
となります。
もし「客が操作方法の注意事項を知らなかった」としても「客に操作方法の注意事項を知ってもらうための対応」がされていれば(2)は防げたかもしれません。
しかし(3)(4)はいずれも客の理解に頼ってしまいます。
「人は間違うものである」という認識のもとに人以外に焦点を当てて論理的に分析し再発防止策を立案するなぜなぜ分析においては、客以外の対応について考える必要があります。
そこで(5)の「客が操作を手助けする店員の介入を求めなかった」ことを要因として加えます。
仮に客が操作できなくても、操作方法を理解している店員が手助けすれば商品のバーコードは読み込めたはずだからです。

なぜ2からなぜ3へ

次はなぜ3への展開を行います。

なぜ2からなぜ3へ
なぜ2からなぜ3へ

 

真因と再発防止策
真因と再発防止策

(3)は、展開の段階ですでに真因である「客がバーコードリーダー操作に不慣れだった」ことが分かっています。

よってなぜ3への展開をせずに真因はそのまま(8)の「客がバーコードリーダー操作に不慣れだった」とします。

例題の場合、真因への展開をなぜ2からとするかなぜ3からとするかは好みの問題かもしれません。

丁寧な展開はなぜ3からの展開だと思いますが、わたしはスパッと切るほうなのでなぜ2から真因へと展開します。

実際の分析では、報告する上でのバランスを考えてもらえば良いと思います。

次に(4)は店のことであるため推測となってしまいますが、セルフレジはすでに近隣の他の店でも導入されているので注意事項の記載に必要性を感じなかったのかもしれません。

必要性を感じていれば記載しているはずだからです。

そこで推測となりますが、(6)の「注意事項を記載する必要性を感じていなかった」へと展開します。

推測は事実とは異なる場合があるので、事実と区別できる様に記載すると良いです。

また要因に推測が多く含まれてしまうと適切な再発防止策を立案できなくなる恐れが生じるため、できる限り事実に基づいて分析することが望まれます。

次に(5)は、「当事者への聞き取り」で「有人のレジに行き店員を呼ぶことも考えたが接客中だった。」ことと、「店員を呼ぶために呼び鈴を探したが無かった。」ことが分かっています。

このことから「店員はセルフレジの側に居なかった」ことが分かるので、そのまま(7)として展開します。

なぜ3から真因へ

次はなぜ3から真因と、再発防止策になります。

なぜ2からなぜ3へ
なぜ2からなぜ3へ

 

真因と再発防止策
真因と再発防止策

なぜ3へ展開した(6)(7)の要因は、そのまま真因の(9)(10)へとつなげました。

6)からなぜ4への展開を考えた場合、「すでに近隣の他の店でもセルフレジは導入されていた」としても真因は(9)「セルフレジ設置時に必要な想定が足りなかった」につながります。

7)からなぜ4への展開を考えた場合、客が店員を呼ばなかったのは客の心理面のことであり、「人は間違うものである」という認識のもとに人以外に焦点を当てて論理的に分析し再発防止策を立案するなぜなぜ分析において、人の心理面を掘り下げて展開することは好ましくありません。

実際には「呼び鈴も無く、店員の居るブースへ呼びに行くことを面倒と思ったところちょうど有人レジの店員が会計を終えたため、操作を聞きに有人レジに行くのであればそのまま会計を済ませたい」と考えてセルフレジに店員を呼ばなかっただけですが、再発防止策として有効なのは呼び鈴を設置して店員を呼びやすくすることで、客に店員を呼ぶことを強制することはできません。

よって真因は(10)の「セルフレジに居る客から店員を呼ぶには有人のレジに行くか、奥のブースに行く必要があった」につなげます。

4M手法の応用
事象の要因を考えるときに4M手法から考える方法があります。
5Mや6Mでも考え方は同じで、それぞれの切り口から要因を探る方法です。
ただし、4Mなどに捉われてしまうと要因のモレにつながってしまうかもしれないため注意が必要になります。
品質の4M
4M
・Man :人
・Machine :機械もしくは治具など
・Method :方法
・Material :材料もしくは原料
4M+E
・Environment :環境
安全の4M
・Man :人
・Machine :機械もしくは治具など
・Media :方法
・Management :マネジメント

再発防止策

真因から再発防止策を立案します。

立案された再発防止策をすべて実施することで事象の再発を防止できる対策とする必要があります。

真因と再発防止策
真因と再発防止策

(8)の再発防止策は、職場などであれば「教育」がメインとなります。

しかし、客に教育する訳にもいかないため、理解を助ける方法として(11)の「セルフレジのコーナーに注意事項を盛り込んだ写真入りの操作方法を掲示する」とします。

(9)の再発防止策は、(11)でも良かったのですが(9)で「想定が足りなかった」と敢えて表現していて、これは職場などであればリスクマネジメントの問題となります。

他に足りないことが無いかを確認するため、(12)の「セルフレジに関して表示など不足していることがないかを利用客に尋ねて改善する」とします。

この対策は積極的に客に尋ねても良いですし、アンケートなどのように記載してもらっても良いと思います。

いずれにしても想定が足らなかったので補う必要があります。

(10)の再発防止策は、セルフレジ設置直後には店員を配置しておくのが一般的と考えますが、導入から半年ほど経過していたので必ずしもその必要はないと考えます。

そこで再発防止策には(13)の「セルフレジのコーナーに店員を呼ぶための呼び鈴を設置する」としました。

「呼び鈴」以外のものが良いかもしれません
例題ではイメージしやすいように「呼び鈴を設置する」としました。
実際には店の規模やシステムに応じて「客が店員を呼ぶための方法」を用意すれば良いと思います。
工場であればパトランプがよく設置されていますし、飲食店ではテーブル番号のランプが表示されるものがあります。

再発防止策の承認と実施

再発防止策の立案が終われば、次は案の承認と実施になります。

なぜなぜ分析の担当者は承認者に分析の報告を行い、承認者は分析がスムーズに展開されて真因にたどり着いていることと、立案された再発防止策が真因に対して有効であり、実行される対策であることを確認します。

そして再発防止策の実施の前に効果の確認を行うタイミングを決めておきます。

例題の場合、効果の確認のタイミングは1か月後程度で良いと思います。

効果の確認

再発防止策の実施後は、効果の確認になります。

例題の場合にタイミングを1か月後として考えると、まず日々のセルフレジ利用状況を確認し、客がスムーズにバーコードリーダーを操作できているか意識的に注視します。

また客からの操作方法の問い合わせがあった場合は内容をメモしておき、1か月後に効果の確認を行うとともに、掲示した操作方法の修正などの必要が無いかなどをメモや日々の利用状況などから必要に応じて検討すれば良いと思います。

水平展開

効果の確認が終われば、次は水平展開になります。

例題の店では本以外にCDDVDなども取り扱っています。

たとえばCDの検索機があり操作方法が分かりにくいなどがあれば、同様に操作方法の掲示や呼び鈴の設置を検討することで今後の事象となる可能性について予防できます。

最後に

なぜなぜ分析を一通り説明しました。

上手く説明できたか怪しいところではありますが、なぜなぜ分析は慣れてくるとスムーズに進みます。

わたしは今、なぜなぜ分析の考え方を応用して楽しみながら「繁盛する店の理由」を分析しています。

問題解決のためだけではなく、論理的な思考を養う上でも興味深いツールだと思っています。

みなさんの職場がより良くなることを願っています。

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