2024/03/19更新 なぜなぜ分析を理解するための手助けとして、今回は包丁使用時のケガについてなぜなぜ分析を実施してみます。
なお今回はなぜなぜ分析以外のことについては必要なこと以外省略します。詳しく考え方を知りたい方は下のリンクを参考にしてください。
事象の出来事
以前家族が料理中に小指の先を包丁で切ってしまいました。
深く切ったのかなかなか血が止まらず結局6時間ほど経って血が止まりましたが、傷みがひどいようで大変な1日となりました。手当をして落ち着いてからケガの原因を尋ねると、『切れない包丁だったから指を切った』などと言っていました。
幸い切り落とすなどの大ケガにはならなかったものの、これが職場で起きた場合には大きな問題となります。そこで今回はこのケガについてなぜなぜ分析を実施してみます。
ケガをしたときの状況
『なぜなぜ分析とは何かを解説します』の「2.1三現主義に基づく確認~2.5当事者への聞き取り」について、ケガをしたときの状況などを整理します。
・包丁をまな板に向けて押すように切っていた。
・手は小指を下にして食材を掴んでいた。
・小指を食材の下に入れていた。
・どうして小指を食材の下に入れていたのかは分からない。
・押すことに夢中になっていたため、小指を切った瞬間に直ぐに包丁を外さなかった。
・いつも通り食材を手で掴んでいた。
あるべき姿の確認
切れない包丁であってもどうやらこの件については人的要因の方向で考えた方が良さそうです。そこであるべき姿がどうであったのかを確認します。
認知 | 判断 | 行動 | |
---|---|---|---|
あるべき姿 | 食材を適当な大きさに切ることを認知する | 食材に手を添える必要があると判断する | 食材に手を添えて包丁で切る |
作業者 | 食材を適当な大きさに切ることを認知する | 食材を掴む必要があると判断する | 食材を掴んで包丁で切る |
今回は判断のところであるべき姿から外れてしまったようです。
切れない包丁であったため、力が逃げないようにしっかりと食材を掴む必要があると判断してしまったのでしょう。
原理原則の確認で分かりますが、食材には手を添えるのが基本で、「添える手はじゃんけんのグー」のように握った状態で行います。「じゃんけんのパー」のように指を伸ばして状態で添えた場合は指を切る恐れがあります。
事象の設定
わたしは正直今回は運が良かったと思います。
「小指を食材の下に入れて包丁を上から押しながら切る」あまりにも怖いので予想できる結果については文字にもしませんが間違えば大ケガとなります。
血がなかなか止まらなかったことからも、事象には「包丁で小指を深く切ってしまった」とします。
なぜなぜ分析の実施
事象からなぜ1へ
なぜ事象の件が発生したのかを考えると、「食材の下に小指を入れていたため」で、包丁の刃の向かう先に小指があったからです。
余程小指を曲げた状態で食材の下に入れていなければ、他の人差し指などに包丁の刃が当たります。
そこでなぜ1は(2) 食材の下に小指を入れていたとします。
なぜ1からなぜ2へ
なぜ食材の下に小指を入れていたのかを考えると、ケガを負った本人も分からないと言っていました。
まず大前提として包丁の刃の下に食材を支える手を入れません。これは当然ケガを負う可能性があるためで、硬いかぼちゃを切る場合でも支える手は包丁の刃から逃がします。
そこで(3) 食材を支える手の使い方を知らなかったとします。
また食材を短冊切りにしていたとのことですが、食材を掴む意味が分かりません。本人としては切れ味の悪い包丁のせいと言っていましたが、理由にはなりません。
そこで(3)と少し似ている要因にはなってしまいますが、(4) 食材の切り方を知らなかったとします。仮に短冊切りをちゃんと理解していれば食材を支える手が掴む動作にはならなかったはずです。
次にもっとも重要なことですが、人的要因で良く起こり、かつ再発防止が難しい要因が(5) 別のことを考えながら包丁を使用していたです。
無意識に普段の行動が出ます。
疲労や睡眠不足などにより正常な判断が出来ない、もしくは鈍るときがあります。そのため、職場においては普段と様子が異なっていないか、体調に問題が無いかなどを普段から接している職長などの責任者が確認します。
それでは「家族であるわたしの確認不足か」となりますが、一応普段から声を掛けています。これはなかなか防ぐことが出来ないことです。
一番良いのは可能であればその作業を無くすことです。とは言え、無くすことが出来ない作業もあります。
たとえば今回の場合には滅多に料理をしないのであればカットされている食材を購入することでも料理は出来ます。包丁を使用しない、リスクを減らした作業に切り替えることも検討しても良いかもしれません。
もちろん普段料理する必要がある場合には包丁の取り扱いに注意することと、必要があれば指ガードなどの使用を検討しても良いと思います。
プロの料理人なら話は変わりますが、必ずしも包丁を使用して料理しなくてはならない訳ではありません。少し極端かもしれませんが、実際に起こった異常に対しての再発防止策を考えるときには許容できるリスクかどうかをしっかりと考える必要があります。
「想定よりも有害なガスが多量に発生していた」「高温の蒸気に晒される危険性があった」などの作業はその後に省略されました。
研究段階や試作段階では現場作業者が関与していない場合もあり、実際には困難な作業も机上で決定されてしまうこともあります。現場作業に明るい方が現場作業に落とし込む前に関与していれば充分に防げたはずのことも多々ありました。
なぜ2から真因へ
なぜ2の(3)と(4)は、知識の問題です。
そこで(6) 包丁を使用するときの注意事項を教わっていなかったと、(7) 食材の切り方を教わっていなかったとします。
(5)は、推測も入りますが、特に急ぎの用事も無くあせって料理をしていた訳ではありません。恐らく少し疲れが出ていたのだと思います。
そこで(8) 疲れていて集中力を欠いていたとします。
作業に遅れがあるとき、遅れを取り戻そうとしても現実的に取り戻せないときもあります。
しかし、作業者はうるさく遅れについて言われると焦燥感となって冷静に作業を行うことが出来なくなり、別の異常に繋がってしまうことがあります。
真因から再発防止策へ
真因の(6)と(7)は教育と訓練になります。
そこで再発防止策は(9) 包丁を使用するときの注意事項を教育と訓練を実施すると(10) 食材の切り方についての教育と訓練を実施するとします。
(8)は、今後も起こりうる可能性があります。そこで、万が一包丁の刃が指に当たっても切ることが無いようにするため、指ガードや金属繊維入りの手袋の導入を検討します。
再発防止策としては(11) 指ガードなどの保護具を導入して使用するとしましたが、実際の対策は作業する人が別の異常を生まないようにする必要があります。
試しに使用して問題が無いことを確認してから対策とする必要があります。
切れない包丁
本人も言っていた切れない包丁だったについては要因にならないのか?と言う疑問があるかもしれません。わたしも要因として考えなくて良いのかと正直悩みました。
切れない包丁とは切れ味の悪い包丁のことで、今回の場合に切れ味の良い包丁であった場合はどうなったでしょうか。
小指の骨はさておき、スパッといきます。
切れ味の悪い包丁は余計な力を入れることになり、刃の滑りなどによるケガも考えられます。しかし、今回のケガの要因を考えていくと知識不足が主であることが分かります。
わたしも同じ包丁を使用していましたが、切りにくい場合には食材を支えずに刃を上から少し押して切ります。
刃などの危険な物を体の方向に向けることや道具に目一杯の力を入れることが行ってはいけないことであることは、最初に教わるはずの基本的な注意事項です。
この基本的な注意事項を理解していれば今回の件は防げたとも思います。
仮に、食材をしっかりと抑える必要があった、なぜ?包丁の切れ味が悪かったからとするとこの2つの要因はしっかりと繋がりますが、食材をしっかりと抑える必要があったの前の要因が出てきません。
たとえば、位置的にはなぜ2が食材をしっかりと抑える必要があったになりそうですが、食材をしっかりと抑える必要があった、だから(2) 食材の下に小指を入れていたと戻ることには無理があります。
食材をしっかりと抑えたいのであれば、硬いかぼちゃの様に濡れたタオルなどを置いて滑らなくした上で食材を掴んでいた手で刃を押してあげれば良かったのです。
よって、食材を掴んでいたことは知識不足が要因としてあると言うことになり、事象とは直接関係が無いこととなります。
最後に
昔であれば痛い思いをして覚えると言う考え方もありましたが、管理者などがそのように考えることは危険です。
普段からリスクマネジメントをしっかりと行って作業者がケガを負うことが無いようにする必要があります。
では、ご安全に。